8月の拡張型心筋症の手術からおよそ2ヶ月が経過した今日、父の容態が急激に悪化しました。原因はNOMI(非閉塞性腸管膜虚血)と呼ばれる症状です。これは端的に言うと「腸が壊死している(腐っている)状態」です。このまま放置すると命に関わるということから、今朝病院から連絡があり、緊急手術をしました。
NOMI(非閉塞性腸管膜虚血)と言っても、その状態は患者によって程度が違います。軽いものから重いものまで段階が分かれます。一番危険なのは、腸が完全に壊死していて、破れている状態です。こうなってしまうと、腸が破れた穴から液が漏れ出し、体の至るところで悪さをしてしまいます。手術を担当してくださった先生によれば、父の腸は破れてはいなかったものの、部分的に壊死しており、一部破れそうなほど薄くなっていたということでした。目視では破れている箇所は確認出来なかったものの、ひょっとしたらどこか薄く、小さい穴が空いている可能性は否定できない、と言っていました。その結果として、今回の手術では1.5メートルほどの壊死している腸を切り取りました。インターネットで調べてみると、人間の腸(小腸)は大人で6,7メートルはあるそうです。なので今回は全体の1/4ほど切り取ったことになります。残っている腸は人工肛門(ストーマ)に繋がれました。壊死した腸を取り除いて、残った無事な腸同士をくっつけるのが理想的なのですが(例えば1本のロープの真ん中10cmくらいを切り取ったとして、残されたロープ同士を真ん中で結び直すということです)、今回はそれが出来ないようです。なぜかというと、本人の回復力が低下しているからです。
先生の説明をそのまま書きますが、腸と腸を縫合するためには、患者本人が元気でなければならないそうです。そうしないと腸同士がくっついてくれないそうです。患者の体力が低下している状態で腸と腸をくっつけたとしても、うまくくっつかず、そこから更にまた壊死してしまう可能性のほうが高いそうです。そうなると本末転倒で、またお腹を開いて再手術、その結果、腸がどんどん短くなってしまう・・・というサイクルに陥ってしまいます。それを防ぐために、患者の状況が芳しくない時には、腸と腸をくっつけるという選択肢は諦めて、人工肛門(ストーマ)を作り、そこに腸をくっつけるそうです。
今、父の腹には人工肛門が2つあります。一つは口→胃→小腸からの人工肛門です。もうひとつは、ロープの反対側、つまり肛門へとつながっている残った腸を人工肛門につないでいます。ここで一つの疑問が湧いてきます。なぜ2つの人工肛門を作り、肛門につながっている腸も残すのかいうことです。それを質問したところ、今後の回復次第では、腸が元気になり、腸と腸をくっつけて元通りにできる可能性があること、そしてそのような可能性があるために大腸を残しているのだが、そちらの腸のほうも(つまり食べ物が通らない状態になっている腸のほうも)人工肛門につけていたほうが外部から目視で確認ができて、万が一NOMIが再発したときに早急に対処できるから、という回答でした。
それからもう一つの理由として、これは看護師さんから教えていただいたことなのですが、人間の体の血液循環というのは、小腸→肝臓という流れになっていて、小腸で得られた栄養分を血液循環でそのまま肝臓へと運ぶようになっているようです。つまり小腸が短くなればなってしまうほど、肝臓へと流れる血液量が少なくなってしまうことになります。肝臓への血液量が少なくなれば、当然ながら今度は肝臓がダメージを受けます。人間にとって肝臓は最重要な臓器の一つであり、ここが被害を被ることはできるだけ避けなければなりません。このような理由により、現代の医学では、腸はできるだけ切り取らず、本当にヤバいところだけ切り取りましょうという認識になっているそうです。
今回、父は小腸を1.5メートルほど切り取ったわけですが、実はこれで終わり、という訳には行きません。一番恐れているのはNOMIの再発です。NOMI(非閉塞性腸管膜虚血)とは、非閉塞性(血管などが詰まっていないにもかかわらず)、腸に栄養分や酸素が行き渡らず壊死してしまう状態のことです。これは補助人工心臓を入れている人に起こる可能性のある合併症の一つなのですが、NOMIの場合、再発する可能性があることと、そこから菌が全身に回ってしまう可能性があるのです。そうなると前回同様、敗血症となり、かなりヤバい状態になります。更に今回は腸を短くしているので、栄養分を吸収できる割合が減っていることになります。人間は小腸から栄養分を吸収しているのは小学校、中学校の授業で学んだ通りですが、要はその吸収している1/4を切り取ったわけですから、その分だけ栄養分の吸収率は下がります。これが更に壊死が進んでくると、腸をまるごと取り除かなければならず、そうなると点滴でしか栄養補給ができなくなってしまいます。そうなると免疫力の低下等が懸念され、死亡の可能性が高くなってしまいます。
さて、8月に書いた最後のブログでは、父の補助人工心臓を変える手術が終わったことを書きました。ICUで1ヶ月寝たきりの状態だったにもかかわらず、目覚めた後の意識は鮮明で、意思疎通が出来ました。脳に血栓は飛んでいなかったのです。それどころか僕や家族のことについて口出しするようになってきて、あまりの口数の多さにこちらが辟易していました。リハビリも順調に進んでいて、病院のフロアを歩行器を使って1周できるくらいにまで回復していました。先月発売のドラクエ11sがやりたいから買ってこい、と言われて買ってきたほどです。腕と指のリハビリがてらニンテンドースイッチを持ち、指を動かしてゲームをしていた姿を見ていたので、「ここまで回復出来たのに、なんで今さら悪くなるの」という気持ちしかありません。一難去ってまた一難、退院が視野に入り始めていた矢先の出来事で困惑しています。また元気に笑う父の姿を見ることができればいいのですが。