バイト先(某スーパー)の奇妙な客その8 またしても万引き犯

私は現在、某スーパーで品出しのアルバイトをしている。「品出し」とは読んで字のごとく、品を出す、つまり入荷してきた商品を陳列するアルバイトのことだ。今回は、そのバイトを辞めるまでの間に遭遇した面白い出来事について書いてみる。

そのおじいさんは、私がバイトを始めた昨年10月頃から既にいた。

服装は上下黒のスウェットジャージ、黒の帽子をかぶっている。買い物籠をセットしたカートを両手で前かがみになりながら、つまりカートに体重をかけながら店内を徘徊する。年齢にして70歳くらいだろうか。顔は結構たるんでいる。それを隠そうとするそぶりはない。いってしまえば汚いじじいだ。

店長によれば、その爺さんも万引き犯であるという。

前回書いた万引き犯とは異なり、この爺さんの犯行の手口はシンプルだ。周りの目を盗んで、目当ての品をかばんに突っ込む。それだけだ。でも、店員の監視の目をかいくぐる為か、何かしらの商品は購入していく。購入するときには、盗んだ商品はかばんの奥底に忍び込ませたままである。そうして店を後にする。

このような手口を常套手段とする爺さんであるが、実は一度店長に捕まったことがある。といっても聞いた話であり、それは僕がアルバイトとしてそのスーパーで働き始める前のことである。当時を知る人の話によれば、店長に捕まえられたあと、こっぴどく説教されたらしい。もちろん警察に突き出された。 

事件の顛末は知らないが、しかし、その爺さんは一度万引きで捕まったとしても、またこの店にきて犯行を繰り返しているとのこと。ただ前回の反省を踏まえてか、ある程度は周りの目を気にするようになったようだ。いやそれでも盗んでいることに変わりはないのだが。 

私がその立場なら恥ずかしくてその店には二度といけないものだが、その爺さんの肝の据わりようというか、精神力には驚きだ。このような肝っ玉の据わった万引き爺さんであるが、これまた常連の部類に入る。3日に1回くらいの頻度で姿を見かけることが多い。

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ある日のことだ。私がレジうちをしていると、例の万引き爺さんがやってきた。落ち着いた様子で店内を徘徊し、お店の中を見渡している。カートを押しながら盗む商品でも決めているのだろうか?いや普通に買ったりもするのだが。

しばらく時間が経って、爺さんが私のレジに並んだ。結構な量を買っている。金額にして二千円くらいか。食品がほとんどである。一人暮らしなのだろうか?それとも奥さんや、身の回りの世話をしてくれる人がいるのだろうか?そもそもこういう人ってどういう暮らしを立てているのだろうか?などと考えているうちにお会計は終わる。

私「合計で二千円になります」

爺さん「はいよ」

私「それでは三千円のお返しです」

機械的な会話を交わしながら、いったいこの爺さんはどこに商品を忍ばせているのだろうか?などと考えていた。

 そのときである。

 爺さんの押しているカートの中には、かばんがある。かばんはバランスを崩して横になっていた。そのかばんの口からポロリと顔を出すジャガイモ、たまねぎ、ニンジン。・・・おい爺さん、ポロリしてるよ。ばっちり見えてるよ。

しかし、これが万引き商品だとは絶対的にはいえない。なぜか。直接商品を取るところを見ていないからである。私はずっとレジに固定されているから、他のお客さんのお会計をしなければならない。したがって100%、その商品を盗ったとはいえないのである。極端な話、他の店でお会計をしたとして、それがそのままかばんの中に入っていて、うちのお店に来たということもあるだろう。万が一そうだとすれば、「お客さん盗んだでしょ」とはいえないのである。下手をすれば名誉毀損やら何やらで、こっちが訴えられることもあるらしい。

したがって万引きは現行犯逮捕、というのが原則なのである。現行犯ならば言い逃れができない。現行犯逮捕の裏にはこういった事情が絡んでいるようだ。

このような理由で、私は爺さんに対して「その商品うちのですよね?」とは言えなかった。そもそも前回書いたように、バイト店員である私には万引き犯を捕まえる権限は与えられていないのであるが。しかしこういうときに限って、万引き犯を捕まえる権限を持っている店長とマネージャーがお休みなのである

したがって、このような状況下において、現行犯かどうかも分からないお客さんは「スルー」しなければならなかった。

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そしてこの爺さんは、ハシビロコウのような冷徹な視線を送る店長は最大限に警戒している。店長がいるとおとなしくなるというか、まあ一度怒られてるし、盗まなくなる。あきらかに店内にいる時間が短いのだ。それはある意味当然かもしれないが。

2017-08-27|
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