森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』を読んで分からない語句を纏めました。数字はページ数(文庫本)です。解釈については参考程度にして下さい。
77 自家中毒(じかちゅうどく)
元気だった子供が突然として嘔吐を繰り返す病気らしいです。体の中にあるケトン体というのがどうやら関係しているらしく、まあ小説の主人公は思いを馳せて馳せて馳せすぎて、その増えすぎた思いで中毒症状を起こしたということでしょう。参考
玲瓏(れいろう)
玉などが透き通るように美しいさま。また、玉のように輝くさま。「―たる山月」「八面―」(goo辞書)
平凡社世界大百科事典(へいぼんしゃせかいだいひゃっかじてん)
画像。こんなの喰わされたら死にます。
78 天啓(てんけい)
天の啓示。天の導き。神の教え。「―にうたれる」(goo辞書)
やぶさか
(「…にやぶさかでない」の形で)…する努力を惜しまない。喜んで…する。「協力するに―ではない」(goo辞書)
蝉時雨(せみしぐれ)
多くの蝉が一斉に鳴きたてる声を時雨の降る音に見立てた語。(goo辞書)
行雲流水(こううんりゅうすい)
空を行く雲と流れる水。物事に執着せず、淡々として自然の成り行きに任せて行動することのたとえ。「―の生活」(goo辞書)
79 礼節(れいせつ)
礼儀と節度。また、礼儀。「衣食足りて―を知る」「―を重んじる」(goo辞書)
常住坐臥(じょうじゅうざが)
《「行住 (ぎょうじゅう) 坐臥」と混同して用いられるようになった語》すわっているときも横になっているときも、いつも。また、ふだん。平生。副詞的にも用いる。「―忘れない」「―心掛けていること」(goo辞書)
憚る(はばかる)
1 差し障りをおぼえてためらう。気がねする。遠慮する。「世間体を―・る」「他聞を―・る」「だれにも―・らず自由に生きる」
2 幅をきかす。増長する。いばる。「憎まれっ子世に―・る」
3 いっぱいに広がる。はびこる。(goo辞書)おそらく3の意味?辺りに蔓延るようなささやき声という意味でしょうか?
80 翩翻(へんぽん)
旗などが風にゆれ動くさま。「―とひるがえる日章旗」(goo辞書)
研鑽(けんさん)
学問などを深く究めること。「日夜―を積む」「自ら―して習得する」(goo辞書)
読めども万巻に至らず、書を捨てて街で出ることも能わず(よめどもばんかんにいたらず、しょをすててまちへでることもあたわず)
「読んでも読んでも(本が分厚すぎて)最終巻までたどり着けない。かといって途中で放り投げて街へ出かけるのも悔しい」という意味でしょうか。「夜は短し歩けよ乙女」が「命短し歩けよ乙女」を変えた表現であるように、この言葉も何かの元ネタといえる言葉がありそうな気がするのですが・・・。
ウワサの恋の火遊びは山の彼方の空遠く、清らかだった魂は埃と汚辱にまみれ、空費されるべき青春は定石通りに空費された
(分厚い本を根性で読んだ結果、大した知識も得られずに)時間だけを消費してしまった。まったくこれだから古本というのは嫌なのだ、という主人公の思いでしょうか。この辺りも何らかの元となる言葉がありそうな気がして、引っかかる言葉ではあります。
毛氈(もうせん)
81 後塵を拝する(こうじんをはいする)
1 地位・権勢のある人をうらやましく思う。
2 すぐれた人物につき従う。
3 他人に先んじられる。人の下風に立つ。(goo辞書)まあ、ピッタリくっついていくという意味でしょう。
傲然(ごうぜん)
おごり高ぶって尊大に振る舞うさま。「―と構える」「―たる態度で人を見下す」(goo辞書)
83 鳥とけものと親類たち(とりとけものとしんるいたち)
武者震い(むしゃぶるい)
戦いや重大な場面に臨んで、興奮のためにからだが震えること。「スタートラインに立って、思わず―する」(goo辞書)
84 まごまご
まごつくさま。うろたえるさま。「道がわからず―(と)した」(goo辞書)
虫とけものと家族たち
僥倖(ぎょうこう)
思いがけない幸い。偶然に得る幸運。「―を頼むしかない」「―にめぐりあう」(goo辞書)
86 アレクサンドリア四重奏
韜晦(とうかい)
自分の本心や才能・地位などをつつみ隠すこと。(goo辞書)
88 吹聴(ふいちょう)
言いふらすこと。言い広めること。「自慢話を―して回る」(goo辞書)
忙中閑あり(ぼうちゅうかんあり)
忙しい中にも、わずかなひまはあるものである。(goo辞書)
閑中忙あり(かんちゅうぼうあり)
まあ反対の意味でしょう。
89 叱咤(しった)
大声を張り上げてしかりつけること。また、しかりつけるようにして励ますこと。「見習いの職人を―する」「―激励」(goo辞書)
90 錯綜(さくそう)
物事が複雑に入り組んでいること。入り交じって混乱すること。錯雑。「事件に関するさまざまな情報が―している」(goo辞書)
91 祝詞(のりと)
儀式など改まった場面で、神を祭り、また、神に祈るときに神前で唱える古体の言葉。現存する最古のものは「延喜式」所収の27編と、藤原頼長の日記「台記」所収の中臣寿詞 (なかとみのよごと) 1編。のっと。のと。のりとごと。「―を上げる」(goo辞書)
忽然(こつぜん)
物事の出現・消失が急なさま。忽如 (こつじょ) 。こつねん。「―として消えうせる」(goo辞書)
臈たけた(ろうたけた)
洗練された美しさと気品がある。特に、女性にいう。(goo辞書)
92 不逞(ふてい)
かって気ままに振る舞うこと。あからさまに不満を表すこと。また、そのさま。「―な(の)輩 (やから) 」(goo辞書)
簒奪(さんだつ)
帝王の位、政治の実権などを奪い取ること。「王位を―する」(goo辞書)
呵々大笑(かかたいしょう)
からからと大声で笑うこと。「腹の底から―する」(goo辞書)
93 野放図(のぼうず)
際限のないこと。しまりがないこと。また、そのさま。「―な暮らし」「―に金を使う」(goo辞書)
奥ゆかしい(おくゆかしい)
深みと品位があって、心がひかれる。深い心遣いが感じられて慕わしい。「人柄が―・い」(goo辞書)
94 博覧強記(はくらんきょうき)
広く書物を読み、いろいろな事をよく記憶していること。「―の人」(goo辞書)
舌なめずり(したなめずり)
欲するものを熱心に待ち設けること。「―して獲物を待ち構える」(goo辞書)
95 気魄(きはく)
力強く立ち向かってゆく精神力。「―がこもる」「―に満ちた演技」(goo辞書)
酒池肉林(しゅちにくりん)
《「史記」殷本紀の「酒を以て池となし、肉を懸けて林となす」から》酒や食べ物がふんだんにある、贅 (ぜい) を極めた酒宴。(goo辞書)
少年老い易く学成り難し(しょうねんおいやすくがくなりがたし)
若いと思っているうちにすぐ年をとってしまうが学問はなかなか成就しない。寸暇を惜しんで勉強せよということ。(goo辞書)
96 ドリアン・グレイの肖像
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細雪
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時分(じぶん)
おおよその時期・時刻。ころ。「そろそろ着く―だ」「若い―」(goo辞書)
99 くつくつ
おかしくてたまらず、押しころすようにして笑う声を表す語。「―(と)笑う」(goo辞書)
102 シャーロック・ホームズ
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巌窟王
戦中派闇市日記
蔵の中・鬼火
アンドロギュノスの裔
103 谷崎潤一郎全集
芥川龍之介全集
新輯内田百閒全集
作家論
お伽草紙
斜陽館(しゃようかん)
太宰治記念館だそうです。HPはこちら。
104 異彩を放つ(いさいをはなつ)
多くの中できわだって見える。「画壇の中で―・つ新人」(goo辞書)
異様(いよう)
ようすが普通でないさま。変わっているさま。「―な光景」「目が―に輝く」(goo辞書)
端然(たんぜん)
姿勢などが乱れないできちんとしているさま。「―と座る」(goo辞書)
105 悪辣(あくらつ)
情け容赦もなく、たちが悪いこと。あくどいこと。また、そのさま。「―な手段」(goo辞書)
神かけて(かみかけて)
神に誓って。絶対に。決して。神以 (しんもっ) て。「―うそは申しません」(goo辞書)
107 岸田劉生(きしだりゅうせい)
岸田 劉生(きしだ りゅうせい、男性、1891年6月23日 – 1929年12月20日)は、大正~昭和初期の洋画家。(goo辞書)
109 大わらわ(おおわらわ)
1 《2が原義》一生懸命になること。夢中になってことをすること。また、そのさま。「記念式典の準備に―な役員たち」
2 髷 (まげ) の結びが解けて髪がばらばらになっていること。また、そのさま。童は髪を結ばなかったところから、大きな童の意でいい、多く、ざんばら髪で奮戦するさまに用いる。(goo辞書)この場合は、突然雨が降ったことにより、古本市のお店の人たちが古本が濡れないように慌てていた様子?
110 萬朝報
それらしい作品が見当たらなかったので適当に貼り付けておきます。
111 端本(はほん)
全集などひとそろいの書物で、欠けている部分があるもの。また、ひとそろいの書物の一部。零本 (れいほん) 。→完本(goo辞書)
113 押し問答(おしもんどう)
互いに自分の見解を主張して、あとにひかず言い争うこと。「渡した、受け取らないで―を繰り返す」(goo辞書)
114 春本(しゅんぽん)
男女の情交のさまを扇情的に描写した本。猥本 (わいほん) 。(goo辞書)
115 心許ない(こころもとない)
頼りなく不安で、心が落ち着かないさま。気がかりだ。「子供たちだけでは―・い」「古い木橋で―・い」(goo辞書)
117 偉容(いよう)
仰ぎ見るほどのすぐれてりっぱな姿。堂々たる姿。「富士の―を仰ぐ」(goo辞書)
珍宝(ちんぽう)
《「ちんぼう」とも》珍しい宝物。(goo辞書)
118 女史(じょし)
社会的地位や名声のある女性を敬意を込めていう語。また、その女性の名前に添えて敬意を表す語。(goo辞書)
119 真言(しんごん)
いつわりのない真実の言葉。密教で、仏・菩薩 (ぼさつ) などの真実の言葉、また、その働きを表す秘密の言葉をいう。明 (みょう) ・陀羅尼 (だらに) ・呪 (じゅ) などともいう。(goo辞書)
憤怒(ふんぬ)
ひどく怒ること。ふんぬ。「非道な行為に―する」(goo辞書)
毛臑(けずね)
毛深いすね。(goo辞書)
120 御仁(ごじん)
人を敬っていう語。おかた。現在では、ひやかしの気持ちを含んで用いることもある。「尊敬すべき―」「これは珍しい―が現れたな」(goo辞書)
記者汽船旅行案内(きしゃきんせんりょこうあんない)
画像。あまり電車関連には詳しくありませんが復刻版が出ている模様です。
122 悶絶(もんぜつ)
苦しみもだえて気絶すること。「あまりの苦痛に―する」(goo辞書)
123 刹那(せつな)
きわめて短い時間。瞬間。「―の快楽に酔う」「衝突した―に気を失う」「―的な生き方」(goo辞書)
迂遠(うえん)
まわりくどいさま。また、そのため、実際の用に向かないさま。「―な方法」(goo辞書)
124 咆哮(ほうこう)
猛獣などが、ほえたけること。また、その声。「虎 (とら) が―する」(goo辞書)
126 邁進(まいしん)
恐れることなく突き進むこと。「学問に―する」「勇往―」(goo辞書)
凄絶(せいぜつ)
非常にすさまじいこと。また、そのさま。「―な争い」(goo辞書)
127 玄妙(げんみょう)
道理や技芸などが、奥深く微妙なこと。趣が深くすぐれていること。また、そのさま。「―な教理」「―な思想」(goo辞書)
128 嗚咽(おえつ)
声をつまらせて泣くこと。むせび泣き。「遺体にすがって―する」(goo辞書)
130 無上(むじょう)
この上もないこと。最もすぐれていること。また、そのさま。最上。「―な(の)喜び」「―な(の)幸せ」(goo辞書)
相伴(しょうばん)
1 連れ立って行くこと。また、その連れの人。
「貴公子仲間の斐誠がいつもいっしょに来る。それに今一人の―があって」〈鴎外・魚玄機〉
2 饗応の座に正客の連れとして同席し、もてなしを受けること。または、人の相手をつとめて一緒に飲み食いをすること。また、その人。「社長のお―で宴席に出る」「今日は私がお―させていただきます」
3 他とのつり合いや行きがかりで利益を受けること。また、他の人の行動に付き合うこと。「お土産のお―にあずかった」「友人に―して映画を見にいく」(goo辞書)
広大無辺(こうだいむへん)
果てしなく広くて大きいこと。また、そのさま。「―な(の)宇宙空間」「―な(の)恩恵」(goo辞書)
131 韜晦(とうかい)
自分の本心や才能・地位などをつつみ隠すこと。(goo辞書)
蕩尽(とうじん)
財産などを使い果たすこと。「家財を―する」(goo辞書)
熾烈(しれつ)
勢いが盛んで激しいこと。また、そのさま。「―をきわめる商戦」「―な戦い」(goo辞書)
132 好敵手(こうてきしゅ)
実力に過不足のない、ちょうどよい競争相手。ライバル。「長年の―」(goo辞書)
赤鬼の仮面の下に(あかおにのかめんのしたに)
火鍋を食べすぎて顔が真っ赤になっているという意味でしょうか。あるいは李白氏がいるこの場所が、熱すぎて地獄のようだという意味と掛け合わせているとも言えます。
133 礼節(れいせつ)
礼儀と節度。また、礼儀。「衣食足りて―を知る」「―を重んじる」(goo辞書)
世界一周(せかいいっしゅう)
少々ネタバレになりますが、『四畳半神話大系』の最後では、樋口氏が世界一周に度立つ描写があります。それと関係あるのかも?ということは時系列的には『夜は短し歩けよ乙女』→『四畳半神話大系』なのでしょうか?
134 地獄を思い出すわい(じごくをおもいだすわい)
これもネタバレで恐縮ですが、『有頂天家族 二代目の帰朝』では地獄が出てきます。その地獄とは李白氏(寿老人)の持ち物が関係している様で、李白氏が行った地獄というのはおそらくその場所でしょう。作品が発表された順番から考えますと、『夜は短し歩けよ乙女』→『有頂天家族 二代目の帰朝』なのですが、その設定はこの作品の段階からあったようですね…。
140 欣快(きんかい)
非常にうれしいこと。また、そのさま。「―に存じます」「―の至り」(goo辞書)
142 三々五々(さんさんごご)
三人、五人というような小人数のまとまりになって、それぞれ行動するさま。三三両両。「生徒が―帰っていく」(goo辞書)
簀巻(すまき)
江戸時代の私刑の一。からだを簀で包み、水中に投げ込むもの。すのこまき。(goo辞書)
お寿司のかっぱ巻きや干瓢(かんぴょう)巻きを作る時に、くるくると巻かれるイメージです。
篝火(かがりび)
夜間の警護・照明や漁猟などのためにたく火。かがり。(goo辞書)
144 ことさら(殊更)
考えがあってわざとすること。また、そのさま。故意。「―な仕打ち」「―につらく当たる」(goo辞書)
147 やさぐれ
《「ぐれ」を「ぐれる」と解したものか》転じて、無気力でいい加減なこと。投げやりなこと。(goo辞書)
149 北から涼しい夕風が吹いてきて、目の前を小さな七色の吹き流しが滑るように飛んでいきました
ここまで読まれた方はピンとくるでしょうが、七色の吹き流しとは、主人公がラ・タ・タ・タムを求めて火鍋を突いていた場面にも登場します。127頁では「それはくねくねと波打ちながら、我々四人を小馬鹿にするように舞っている。いくら箸を伸ばしてもつかめない」と不思議なものであるという描写されています。ちなみに七色の吹き流しには「縁結び」の意味もあるそうなので、子の小説の先輩と黒髪の乙女の「縁結び」の描写にもなっているのでしょうか。話を戻しますが、この七色の吹き流しとは、古本市の神の描写であるとも見て取れます。というのも、主人公が火鍋を突いた後の場面では、李白氏の所有する古本が一冊を残して全て消えてしまいました。すなわち古本市の神による犯行は、主人公達が火鍋を突いている最中に行われたことになりますが、この吹き流しがその場面に登場することによって、古本市の神がその場所で犯行に及んでいるという比喩ともいえるのです。実際、小説内では、この吹き流しが127頁登場して以降、「ラ・タ・タ・タム」や「古今和歌集の写本」が主人公達の目の前にあるような描写は見て取れません(映画では分かりませんが)。それ以前では、例えば122頁では李白氏が実際に本を手にとって主人公たちに見せつける場面があります。しかし127頁以降はそのような描写がありませんから、ともすればこの吹き流しこそが古本市の神でもあり、主人公達の場面から本を掻っ攫っていったとも言えなくもないのです。
話は変わりますが、古本市の神について、91頁で樋口氏は「意中の本との幸福な出会いを助け、古本を介して男女の仲を取り持ち、古本屋のためにドラマチックな商いを演出する」と言っています。このお話では主人公と黒髪の乙女が1冊の古本によって(若干ではありますが)男女の仲を取り持たれたとも言えます。ともすればこれは古本市の神の思し召しにもよるところでもあるのでしょうし、主人公と黒髪の乙女が会話をしている最後のシーンでは七色の吹き流しが登場します。
もう一つ気になるのが、古本市の神が複数いるのではないか?という点です。主人公と会話をしていた小さな少年は「われこそは古本市の神である」と宣言していますし、小説内の描写からも古本市の神であることは明らかでしょう。しかし、上述した主人公達が火鍋を突いている場面に登場する「七色の吹き流し」がその少年であるとは言えないですし、一緒にいた織田作之助全集の端本を読んでいる女性も、それに近い存在であることは間違いありません。この女性は、117頁で「自信がなくなった」と言って李白氏の挑戦を断っていますが、なぜこの場面で断ったのかという疑問が一つあります。おそらく古本を掻っ攫うための犯行の一部であり、そのため李白氏に挑戦者のフリをしてついていったとも読むことができます。全ての古本を奪われた李白氏に「われは古本市の神なり」と宣言したのは、この女性が渡した1冊の本でした。148ページでは少年と一緒に消えていく場面がありますが、このような描写から、織田作之助女史は古本市の神に近い存在であることはわかります。この織田作之助女史に関してですが、最初は、古本市の神の母親なのかとも思いました。その根拠としては135頁で「ご主人、あともう少しお休みくださいませ。あともう少しで息子が戻りますから」と発言していることです。ここでの息子は、物語最後に、古本市の神と織田作之助女子が一緒に帰っている場面があることからも、その古本市の神(少年)であることは間違いありません。しかしここで一つの矛盾が生じます。111頁では古本市の神である少年が「親父が死んだ」と言っています。この親父は誰だろう?とも思いましたが、古本市の神の父=古本市の神なのでしょうか。しかしそうなるとすれば、135頁での「ご主人」とは文字通りの古本市の神の父親ではないということになります。ここでのご主人とは、男性に話しかける言葉としてのご主人という意味でしょうか。
ここで「ご主人」と話しかけられた黒眼鏡をかけた男性も気になります。この黒眼鏡は、織田作之助女史の「我こそは古本市の神なり」と書かれた本を李白氏に渡したのは黒眼鏡ですし、主人公達を火鍋の会場に連れてきた男性もまた、黒眼鏡でした。更に141頁では、古本市の神の少年が、鉄道研究会のジュラルミンケースを持っています。ともすれば鉄道研究会の人物も古本市の神に関連する人物なのでしょうか。何れにせよ、この3人ないし4人が古本市の神に近い存在であることは間違いありません。91頁では樋口氏がこう言っています。「古本市の神はいろいろな姿をして現れるといわれるから、本当の姿を知っている人間はいない。あるときは角ばった顔の眼鏡男(=黒眼鏡or鉄道研究会?)、あるときは老学者(=古今和歌集のジジイ?)、あるときは臈たけた和服の美人(=織田作之助女史?)ある時は赤顔の美少年(古本市の神の少年?)ある時は何故か色あせた浴衣を着ている年齢不詳の男(=樋口?)、またある時は黒髪の乙女(=黒髪の乙女?)…。」樋口氏と黒髪の乙女に関しては、古本市の神が化けたということではないでしょうが、この小説内に登場する全ての人物が古本市の神の思し召しであることは確かでしょう。
追記
映画『夜は短し歩けよ乙女』の90秒pvから頂戴しましたが、このカットで黒髪の乙女が抱きしめているのは、紛うことなき「ラ・タ・タ・タム」ですね。ISBNコードや値段まで一致しており、中々細かい仕上がりの様です。明日映画を見に行きますので、また感想を書きます。
第三章はこちら