自家焙煎メモ:豆の個性と蒸らしについて分かったこと

自家焙煎を初めて1年が経ちますが、最近コーヒーに関する著作を読んで分かったことをまとめます。

今回の発見は2つです。それは①豆によって最適な焙煎度合いは異なってくるが、それは水分値や豆の大きさの条件に由来するということ、もう一つは②豆の大きさや栽培された環境、高地、精製方法、豆の色(青さ)、厚さ・大きさによって蒸らしの時間が異なってくるであろうということです。以下具体的に書きます。

①豆によって最適な焙煎度合いが異なってくる

これは多くの方が、何となくではあるももの感覚としては分かっていることでしょう。最適な焙煎度合いは豆ごとに異なります。浅煎り向きの豆を深煎りにしたところで美味しくありませんし、逆も然りです。例えばモカの深煎りや、マンデリンの浅煎りがそうでしょう。モカは浅煎り~中煎り手前こそが美味しく、マンデリンは中深煎りから本領を発揮します。しかしそれがなぜ、どうして最適な焙煎度合いでないと美味しくないのか?感覚的にはなんとなくとは分かっても、具体的に「このような理由でこうなるから」とは答えられないのではないでしょうか。

この疑問に対しての明確な答えを示してくれたのが、『コーヒーおいしさの方程式』という一冊の本でした。これによると、最適な焙煎度合いが豆によって異なるのは、豆の中に含まれる水分の量や大きさによって、その抜け方が変わるから、結果として水が抜けやすい豆は浅煎りがベスト、水が抜けにくい豆は中深煎り以降がベストということでした。「最適な焙煎度は豆ごとに違う。(中略)例えばケニアやコロンビアは高地産で肉厚、大粒で含水量の多いDタイプに分類されている。Dタイプは火の通りがわるく、強い酸味をもっているため、Aタイプのような『浅煎り~中煎り』の焙煎度は向かない。味わい深い苦味の出る『中深煎り~深煎り』の焙煎度こそふさわしい。もしDタイプのケニアやコロンビアをAタイプの豆のように浅く煎ったらどうなるか。おそらく芯まで火が通らず、渋さと酸っぱさが同居した”渋酸っぱい味”になるだろう。これでは、せっかくケニアやコロンビアも台無しで、重厚な苦味とコクという本来の持ち味を引き出せなかったことになる。つまりは骨折り損のくたびれ儲けということである。」*1 ということでした。ここでAタイプとかDタイプと言われているのは、著者二人が便宜的に分類したもので、これは豆の含水量の多寡や、大きさ(厚さ)、硬さによって色の変化やシワの伸び方がAタイプからDタイプまでの4つのグループに分けられるということです。簡単に書くとAタイプは低地産のやわらかい豆で浅煎り向き、低地から中高地産のBタイプは中煎り、中高地産で比較的肉厚のCタイプは中深煎り、高地産で肉厚、大粒で含水量の多いたDタイプは中深煎り以降が最適な焙煎度になるそうです。余談ですがこの本を執筆した著者二人は日本の珈琲業界では大変有名な方で、40年以上焙煎をしている職人の方と、研究者の方が科学的な見地から珈琲の焙煎や抽出について解説しています。従ってこの本は暗黙知である「経験と勘」に基づいたものではなく、科学的な立場からも解説が加えられているもので初心者でも分かりやすい本です。

つまり上記の論拠に基づけば、豆によって最適な焙煎度合いが異なる理由は、豆に含まれる水分値の多寡や大きさ、厚さによって熱の通り方が違うので、芯まで火が通る時間が異なるからということになります。(より具体的に書くと加水分解だとかメイラード反応があるのですが、それについてはまた改めて書きます)

②豆の大きさや栽培された環境、高地、精製方法、豆の色(青さ)、厚さ・大きさによって蒸らしの時間が異なってくる

さて、これらの要素を敢えて豆の「個性」と表現しますが、その豆の個性をどのように活かすか、あるいは引き出すかというのが自家焙煎の醍醐味であり、腕の見せ所という事になってきます。つまり豆の大きさや厚さ、色(水分含有値によって異なる)、高地栽培されているのか低地栽培されているのかといった条件は生産者以外はどうしようもない部分であり、私達消費者には決められません。そうだとすれば、その予め決まっている条件を豆の「個性」として捉えて、その個性を如何に引き出すかということに主眼を当てて考えば良いということになります。そのためには豆がAタイプからDタイプのどこに位置するのかをしっかりと見極めて、最適な焙煎方法に落としこめば良い訳です。その中でも大切なのが水分抜き、通称”蒸らし”です。(AタイプからDタイプの詳しい解説については田口氏、旦部氏の著作に任せます。)

「考えてみれば、コーヒー豆をA~Dという4つのタイプに分ける煩瑣な作業も、結局のところ『水抜きの難易度』別にA~Dに分けた、ということだったのかもしれない。(中略)焙煎によってコーヒーの香味成分ができあがるには、①水が少ない状態で、②概ね180℃以上の温度に達することが必要です。もし芯の部分まできちんと水分が抜けていないと、芯だけが焙煎が進まない”芯残り”となり、著しく香味を損ないます」*2 つまり上記の論理に基づけば180℃以下で水抜き ―これを筆者らは”蒸らし”とよんでいますが― を行う必要があるということになります。この蒸らしこそがコーヒーの味を決める上で極めて重要であり、豆の個性を引き出せるポイントということにもなりますが、この”蒸らし”の最適な条件は焙煎機や焙煎する気温、湿度などの環境によって異なってしまうため、現状詳しい解答は示されておらず、闇の中を手探り状態でやるしかありません。逆に言えばこの部分に明確な解答を示すことができれば、コーヒーの研究は一歩先の段階に進むことができるでしょう。

僕は最近になって最初に150℃以下で水抜きを行っていましたが、やはり上の論拠に基づけば、このやり方は間違っていなかったということになります。しかし課題としては、最適な蒸らし時間が分かっていないのと、一体何度で蒸らしを行えば良いのか分かっていないという問題があります。例えば130℃15分で蒸らしを行えば良いのか、160℃10分で蒸らしを行えばいいのか?この部分について、今度はもう少し深く掘り下げて調べてみることにします。


参考文献

*1 田口護、旦部幸博『コーヒーおいしさの方程式(第7版)』NHK出版、2020年6月発行。pp62-63。

*2 同上 pp103-104。