前回の記事を書いてから3日しか経っていませんが、とりあえずの経過を書いておきます。父が拡張型心筋症の補助人工心臓の不具合によって緊急手術をしたのが7月4日のことです。今日が7月14日ですから、手術から10日が経過したことになります。緊急手術が決定してからは、手術の家族待機や医師からの説明など、とにかく色々ありすぎて混乱しており、気がついたら1週間が経過していました。その時に書いた記事がこちらです。
それから3日が経過しました。今回はICUで父と何度か面会をした感想を書いておきます。感想…と書くと機械的で小学生の作文みたいですが、今は僕自身の感覚や気持ちが麻痺しているので、忘れないうちに、そして気持ちの整理も兼ねてこの3日間で起こったことを書いておきます。
一昨日のことです。お医者さんからはいいニュースと悪い知らせがあります、と言われました。いい知らせというのは、3日前は敗血症だった父が、抗生剤が効いたのか、その1段階マシな状態である菌血症に変わりました。どちらも血液中に菌が検出されており、それが全身に巡っていることには変わりはないのですが、程度の重さでいうと菌血症<敗血症であるということです。幸いにして数日前に投与した抗生剤が徐々に効いているとのことでした。一方、悪い知らせというのは、その原因となっている菌の出処が未だに特定出来ていないということでした。通常であれば敗血症や菌血症は、患者の感染源を特定してそこに適切な処置を施していく必要があるということですが、父の場合はその原因となっている菌(クレブシエラ・ニューモニエ)がどこから検出されているのか、またどこで増殖しているのか判明していないそうです。
父は補助人工心臓を埋め込んでいるため、それを動かすための電源ケーブルが1本お腹から出ています。そのお腹から出ているケーブルを伝って菌が父の体内に侵入しているということでした。当初はそれが原因ではないかと思われたのですが、お医者さんによれば、どうやらその菌は今回の菌血症とは関係がないということです。今回の原因となっている菌は、それとは別に感染の原因があるということでした。つまり前者の感染源は父の腹から伸びているケーブルを伝って内蔵に侵入しているということでしたが、後者の感染源が不明である、ということです。とすれば、父の体内には、少なくとも2つ厄介な菌が侵入していることになります。今のところ、前者は大きな悪さをしていませんが、しかし後者の菌が悪さをしていて、出処が分からない以上、そこに適切な処置が施せないので、抗生剤を点滴として投与するしかないそうです。菌血症とはなったものの、体内に菌がいることには変わりはなく、未だ予断を許さない状況です。
手術から10日が経過して、その間ずっと父はICUに収容されています。ICUはIntensive Care Unitの略、つまりは集中治療室です。重篤な患者がここに収容されます。そのため、ICUでは面会時間に制限が設けられています。父の病院では午後の3時から午後の7時半まで、時間にして4時間半です。面会をする時は入念に手洗いをしてアルコール消毒をする必要があります。マスクを着用して、感染防止のために服の上からビニールの服を着ます。さらにネットの防止を被ります。看護師さんの後をついていって、二重の扉をくぐった先にICUがあります。ICUの中も個別のブース(病室)に区切られていて、患者毎に仕切られています。ICUの中央には監視室のようなスペースが設置されていて、お医者さんや看護師さんの方がたくさんのモニターとにらめっこしています。その監視室をぐるりとコの字に囲むように、病室が配置されています。父の病室はコの字の角の部分にあります。
病室で横たわる父にはその身体をぐるりと囲むように様々な機械が置かれています。人工呼吸器や、人工透析機械、さらにはPCPSという補助人工心臓の大きな機械、何本あるか分からない点滴の数々です。
今まで面会をしても、父は殆どは意識がなく、つまりは薬によって眠らされてただベッドの上に横たわっているだけでした。しかし今日面会をした時は、父の目は空いていて、時々まばたきをパチパチとして天井を見つめていました。看護師さんによれば、ここ数日で意識がはっきりとしてきたということです。父は動かないように薬によって眠らされているのですが、とはいっても、常に眠らされているわけではなく1日に数回、本人の意識の確認をする必要があるため、薬の量を減らして意識が明確な時とそうでない時があるそうです。つまり、今日は父の意識が割と明確な時に面会できたということです。しかし、その意識が割と明確な時でさえも、僕が声を掛けても聞こえているのか聞こえていないのか反応が不明確でした。こちら話しかけても話しかけた方を見るのですが、黄疸によって目は黄色く濁って変色し、焦点が定まらず虚空の一点を見つめています。そして時折、僕たちには見えない何かを見つめて怯えているような表情をし、首を大きく横に振ります。口には呼吸器をつけているため声が出せないのですが、声高に何かを叫ぼうとしていました。
2年前にも父はICUに収容されていますが、そのときも同じような状況でした。後から聞いた話ですが、当時は幻覚や幻聴がかなり激しかったそうです。面会にきた僕たちのことも覚えておらず、自分が果たして夢の中にいるのか現実の世界にいるのか分からなくなると言っていました。例えば医者の先生が病室にいる自分に突然灯油をかけに来て、それから火をつけたマッチを放り投げられて全身が火達磨になる、というような幻覚や、自分の手術中に腹から内蔵とえぐり取られるという幻覚を何度も見たそうです。生死の堺を彷徨っていることによる心理的不安もあるでしょうけれども、恐らくその幻覚の原因は医療用大麻の副作用によるものではないかと思われます。父につながっている点滴の1本を見ると、そのラベルには「医療用大麻:フェンタニル」と書かれていました。これは2年前にお世話になった看護師さんが詳しく教えて下さったのですが、曰くモルヒネやフェンタニルを始めとする医療用大麻は、確かに患者の痛みを相当程度和らげてくれるが、一方で幻覚や幻聴という副作用があるということでした。その話を総合すると、その副作用によって、今回も父は幻覚を見ているのではないかという印象を受けたのです。ひょっとしたら、面会中に僕が掛けた声も脳内で得体の知れない何かに置き換わり、父の幻覚や幻聴の一部となっていたのかもしれません。とにかく今日の面会では、最後まで父とまともな意思疎通をとることは出来ず、ずっと何かに怯えて、虚空の一点を見つめながら声高に何かを叫ぼうとしている父の姿だけが印象に残っています。