今更ではありますが、森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』を読むにあたって、個人的に分からなかった語句をまとめました。解釈については個人的なものなので、一つの’参考’として捉えて下さい。数字はページ数(文庫版)です。
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/12/25
- メディア: 文庫
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7 酒精(しゅせい)
路傍(ろぼう)
道のほとり。みちばた。路辺。(goo辞書)
諸賢(しょけん)
1 多くの賢人。
2 多くの人々に対して敬意を込めて呼ぶ語。代名詞的にも用いる。みなさん。「―のご健康を祈る」(goo辞書)
「読者諸賢」という表現が森見氏独特の言い回しですね。
玩味(がんみ)
言葉や文章などの表している意味や内容などを、よく理解して味わうこと。「古典の作品を熟読―する」(goo辞書)
妙味(みょうみ)
なんとも言えない味わい。非常にすぐれた趣。醍醐味 (だいごみ) 。「すぐれた作品のもつ―」(goo辞書)
8 完膚なきまで(かんぷなきまで)
無傷のところがないほど徹底的に。「―に論破される」(goo辞書)完膚というのは、傷のない「完」全な皮「膚」のこと
燎原(りょうげん)
野原を焼くこと。また、火の燃えひろがった野原。(goo辞書)
満腔(まんこう)
からだじゅう。満身。「―の敬意を表する」(goo辞書)
9 聖人君子(せいじんくんし)
知識や徳の優れた、高潔で理想的な人物。「―のような振る舞い」(goo辞書)
内輪(うちわ)
外部の者を交えないこと。うちうち。身内。「―で祝う」(goo辞書)
師匠筋(ししょうすじ)
師匠に当たる人。(知恵袋)
10 偕老同穴(かいろうどうけつ)
《「詩経」邶風・撃鼓の「偕老」と「詩経」王風・大車の「同穴」を続けていったもの。生きてはともに老い、死んでは同じ墓に葬られる意》夫婦が仲むつまじく、契りの固いこと。(goo辞書)
天衣無縫(てんいむほう)
天人の衣服には縫い目のあとがないこと。転じて、詩や文章などに、技巧のあとが見えず自然であって、しかも完全無欠で美しいこと。また、そのさま。「―な(の)傑作」(goo辞書)
恬然(てんぜん)
物事にこだわらず平然としているさま。「―とした態度」(goo辞書)
体たらく(ていたらく)
《「たらく」は、断定の助動詞「たり」のク語法》ありさま。ようす。ざま。現在では、ののしったり自嘲をこめたりして、好ましくない状態にいう。「初日から遅刻とはなんという―だ」(goo辞書)
11 鵜の目鷹の目(うのめたかのめ)
鵜や鷹が獲物を求めるように、熱心にものを探し出そうとするさま。また、その目つき。「―で掘り出し物を探す」(goo辞書)
一献(いっこん)
1杯の酒。また、酒を酌んで飲むこと。「―傾ける」(goo辞書)
12 所存(しょぞん)
心に思うところ。考え。「精いっぱい努力する―です」(goo辞書)
臍を固める(ほぞをかためる)
決意を固める。覚悟を決める。「―・めて事に当たる」(goo辞書)
霧消(むしょう)
霧が晴れるように消えてなくなること。「不安が―する」「雲散―」(goo辞書)
13 無手勝流(むてかつりゅう)
《剣豪の塚原卜伝 (つかはらぼくでん) が、渡し船の中で真剣勝負を挑まれた時、州 (す) に相手を先に上がらせ、自分はそのまま竿を突いて船を出し、「戦わずして勝つ、これが無手勝流」と、その血気を戒めたという故事から》
自分勝手なやり方。自己流。
一抹の(いちまつの)
ほんのわずか。かすか。「―の不安が残る」(goo辞書)
翳り(かげり)
1 太陽や月の光が雲などによって少し暗くなること。また、その部分。2 表情などの、どことなく影がさし、暗くなったような感じ。「表情に―が見られる。3 よくない兆候。「景気に―が出る」
つまりは、翳り=不安ではないかと。(goo辞書)
ラム
糖蜜を発酵させて造る蒸留酒。特有の香味があり、アルコール分は約45パーセント。カクテルや香味料にも用いる。ラム酒。(goo辞書)
14 豪奢(ごうしゃ)
非常にぜいたくで、はでなこと。また、そのさま。「―な暮らし」(goo辞書)
アカプルコ
画像 ラム+オレンジ+レモン
キューバ・リバー
画像 キューバリブレとも。コーラ+ラム+ライム。確かキューバの独立を祝って作られたとか聞いたような気がします。キューバのリバー(liber・自由)。
ピナコラーダ
画像 ラム+パイナップル+ココナッツ
飲みつ飲まれつ(のみつのまれつ)
「持ちつ持たれつ」を文字ったもの?「持ちつ持たれつ」の意味は「互いに依存し合い助け合うことによって,両者とも存続するさま。(weblio)」
猛々しい(たけだけしい)
勇ましくて強そうである。「―・い武将」(goo辞書)
15 ナイスミドル
《〈和〉nice+middle》かっこよさと思慮深さとを兼ね備えた中年男性。同様の中年女性をナイスミディ(nice midi)ともいう。 (コトバンク)
無粋(ぶすい)
[名・形動]世態・人情、特に男女の間の微妙な情のやりとりに通じていないこと。また、そのさま。遊びのわからないさま、面白味のないさまなどにもいう。やぼ。「―なことを言う」「―な客」⇔粋。(goo辞書)
16 千金(せんきん)
多額の金銭。また、非常に価値の高いこと。「一攫 (いっかく) ―」(goo辞書)
乱痴気騒ぎ(らんちきさわぎ)
はめを外し、入り乱れて騒ぐこと。どんちゃん騒ぎ。「上を下への―」(goo辞書)
17 哀切(あいせつ)
非常に哀れでもの悲しいこと。また、そのさま。「―を極めた物語」(goo辞書)
18 萌葱色(もえぎいろ)
酩酊(めいてい)
[名](スル)《古くは「めいでい」とも》ひどく酒に酔うこと。「度を過ごして―する」(goo辞書)
19 袋小路(ふくろこうじ)
1 行きどまりになっている路地。袋道。2 物事が行きづまって先に進めない状態。袋道。「審議は―に入ってしまった」(goo辞書)
21 若人よ、自分にとっての幸せとは何か、それを問うことこそが前向きな悩み方だ。そしてそれをつねに問い続けるのさえ忘れなければ、人生は有意義なものになる
何気に名言だと思います。いい言葉だったので書きとどめておきます。
22 仔細(しさい)
事細かであること。また、そのさま。詳細。「―な検討」「―に述べる」(goo辞書)
24 春画(しゅんが)
昔のHな絵のことです。
鯨飲(鯨飲)
[名](スル)鯨が水を飲むように、酒を一時にたくさん飲むこと。牛飲。(goo辞書)
26 慮る(おもんぱかる)
《「おもいはかる」の音変化。「おもんばかる」とも》周囲の状況などをよくよく考える。思いめぐらす。「相手の体面を―・る」(goo辞書)
28 快活(かいかつ)
気持ちや性質が明るく元気のよいさま。「―な性質」「―な少女たち」(goo辞書)
河岸(かし)
飲食・遊びなどをする場所。(goo辞書)
30 久闊を叙す(きゅうかつをじょす)
無沙汰をわびるあいさつをする。久し振りに友情を温める。「互いに―・する」(goo辞書)
31 敢然(かんぜん)
困難や危険を伴うことは覚悟のうえで、思い切って行うさま。「―と難局に立ち向かう」(goo辞書)
早計(そうけい)
早まった考え。十分に考えないで判断すること。また、そのさま。「そう結論するのは―だ」「―に失する」(goo辞書)
奇々怪々(ききかいかい)
《「奇怪」のそれぞれの字を重ねて意味を強めた語》きわめて奇怪なこと。また、そのさま。「―な事件」(goo辞書)
奇怪(きかい)
常識では考えられないほど怪しく不思議なこと。また、そのさま。きっかい。「―な事件が起こる」(goo辞書)
満天下(まんてんか)
この世に満ちていること。また、世の中全体。「―に知られる」(goo辞書)
逢瀬(おうせ)
会う時。特に、愛し合う男女がひそかに会う機会。「たまさかの―を楽しむ」(goo辞書)
手ぐすね引く(てぐすねひく)
十分用意して待ちかまえる。準備して機会を待つ。「―・いて待ち受ける」(goo辞書)
手ぐすね(手薬煉)とは、弓の弦に塗るものだそうで、用意周到に準備して待つ、という意味から来たそう(語源由来辞典)
32 知己(ちき)
自分のことをよく理解してくれている人。親友。「この世に二人とない―を得る」(goo辞書)
33 狼藉(ろうぜき)
《「史記」滑稽伝による。狼 (おおかみ) は寝るとき下草を藉 (ふ) み荒らすところから》[名]無法な荒々しい振る舞い。乱暴な行い。「―を働く」「乱暴―」(goo辞書)
痛快無比(つうかいむひ)
胸がすっとして、ものすごく楽しくて気持ちのよい様子。(四字熟語オンライン)
英傑(えいけつ)
知力、勇気などのすぐれている人。英雄豪傑。「一代の―」(goo辞書)
しずしず
動作などが、静かにゆっくりと行われるさま。「―と祭壇の前に進み出る」(goo辞書)。漢字で書くと、「静静」
34 昼日中(ひるひなか)
吝嗇家(りんしょくか)
ケチ。
お大尽(おだいじん)
遊里で多くの金を使って豪遊する客(goo辞書)。大尽(だいじん)に丁寧語「お」をつけた形。
幇間(ほうかん)
宴席に出て客の遊びに興を添えることを職業とする男性。幇間 (ほうかん) 。(goo辞書)
35 煩悶(はんもん)
いろいろ悩み苦しむこと。苦しみもだえること。「独りで―する」(goo辞書)
38 三々五々(さんさんごご)
三人、五人というような小人数のまとまりになって、それぞれ行動するさま。三三両両。「生徒が―帰っていく」(goo辞書)
恰幅(かっぷく)
肉づきや押し出しから見た、からだの格好や姿。からだつき。「―のいい紳士」(goo辞書)
39 格調(かくちょう)
詩歌・文章・演説などの構成や表現から生じる全体の品格。「―の高い文章」(goo辞書)
40 暗澹(あんたん)
将来の見通しが立たず、全く希望がもてないさま。「―とした表情」「―たる人生」(goo辞書)
捨て鉢(すてばち)
どうともなれという気持ち。また、そうした気持ちであるさま。自暴自棄。「失敗続きで―になる」「―な態度」(goo辞書)
捨て鉢の語源はこちらの方に詳しく書いてあります。
莚を分かつ(えんをわかつ)
莚=ムシロ。つまり、寝床を分かつ。=さようならバイバイ、という意味らしいです。(知恵袋)
41 惨状(さんじょう)
思わず目をそむけたくなるような、むごたらしいありさま。また、いたましいありさま。「事故現場の―」「難民の―を報じる」(goo辞書)
42 色事(いろごと)
男女間の恋愛や情事。「―には縁遠い生活」(goo辞書)
講釈(こうしゃく)
書物の内容や語句の意味などを説明すること。「論語を―する」(goo辞書)
43 板塀(いたべい)
46 濛々(もうもう)
霧・煙・ほこりなどが立ちこめるさま。「―と砂ぼこりをまき上げる」(goo辞書)
怪訝(けげん)
不思議で納得がいかないこと。また、そのさま。「―な顔をする」「―そうにじろじろ見る」(goo辞書)
47 てまえ
自分ですること。自前。(goo辞書)
投げ銭(なげせん)
大道芸人やこじきなどに、金銭を投げ与えること。また、その金銭。なげぜに。(goo辞書)
50 目眩く(めくるめく)
目がくらむ。めまいがする。「―・く心地がする」(goo辞書)
千万(せんばん)
形容動詞の語幹や性質・状態を表す体言に付いて、その程度がはなはだしいという意を添える。「無礼―」「迷惑―」(goo辞書)
51 四当五落(よんとうごらく)
寝る間も惜しんで勉強して4時間の睡眠なら合格するが、5時間も眠っているようでは合格できない(睡眠健康大学)
52 奇天烈(きてれつ)
非常に風変わりであるさま。多く「奇妙きてれつ」の形で用いる。「奇妙―な格好」(goo辞書)
53 荘厳(そうごん)
重々しくおごそかなこと。おごそかでりっぱなこと。また、そのさま。「―な式典」(goo辞書)
54 欄干(らんかん)
大見得を切る(おおみえをきる)
1 歌舞伎で、役者が特に際だった見得の所作をする。
2 自信のあることを強調するために大げさな言動をとる。また、出来もしないことを出来るように言う。(goo辞書)こちらに、欄干に足を掛けて大見得を切る石川五右衛門の絵が載っています。
睥睨(へいげい)
にらみつけて勢いを示すこと。「天下を―する」(goo辞書)
鬼やらい(おにやらい)
追儺(ついな)とも言う。節分の日の豆まきの事。「鬼は外、福は内」といって升から豆を取り出し、投げつけるイメージでしょう。(weblio)
乱心(らんしん)
心が乱れ、狂うこと。逆上したりして分別をなくしてしまうこと。「怒りのあまり―する」「―者 (もの) 」(goo辞書)
55 丑三つ時(うしみっつどき)
深夜2時ごろ。(知恵袋)
好事家(こうずか)
物好きな人。また、風流を好む人。(goo辞書)
56 上洛(じょうらく)
地方から京都へ行くこと。「東山道を経て―する」(goo辞書)
悶々(もんもん)
悩み苦しむさま。「―として夜を明かす」(goo辞書)
策を弄する(さくをろうする)
必要以上に策を用いる。(goo辞書)
57 満座(まんざ)
人がその座いっぱいになっていること。また、その座にいる人すべて。「―の注目を集める」(goo辞書)
59 燦然(さんぜん)
きらきらと光り輝くさま。また、はっきりしているさま。鮮やかなさま。「―と輝く星」「―たる宝冠」(goo辞書)
万国旗(ばんこくき)
瀬戸引き(せとびき)
鉄製の器具の表面を琺瑯質 (ほうろうしつ) でおおうこと。また、その製品。琺瑯引き。(goo辞書)
60 寄席文字(よせもじ)
満艦飾(まんかんしょく)
1 海軍礼式の一。祝祭日や観艦式などの際に、停泊中の軍艦が艦全体を信号旗・万国旗などで飾りたてること。
2 身なりを盛んに飾りたてたり、物をいっぱいにつるしたりしたようすを1にたとえていう語。「―のいで立ち」(goo辞書)
61 満々(まんまん)
満ちあふれているさま。満ち満ちているさま。「―と水をたたえたダム」「―たる自信」(goo辞書)
63 借財(しゃくざい)
金を借りること。また、借りている金。借金。「―して事業を立て直す」(goo辞書)
64 心持ち(こころもち)
感じていることや思っていること。気持ち。気分。「子を持って、親の―がわかった」「一杯の酒で好い―になる」(goo辞書)
65 莞爾(かんじ)
にっこりと笑うさま。ほほえむさま。「―として笑う」(goo辞書)
66 懐手(ふところで)
71 看取(かんしゅ)
見てそれと知ること。観取。「相手の言動からその意図を―する」(goo辞書)
真善美(しんぜんび)
認識上の真と、倫理上の善と、審美上の美。人間の理想としての普遍妥当な価値をいう。(goo辞書)
うち揃う(うちそろう)
全部が一つにまとまる。きちんとそろう。「家族―・って出かける」(goo辞書)
74 夜は短し歩けよ乙女(よるはみじかしあるけよおとめ)
この作品のタイトルともなっている言葉です。もともとの言葉は「命短し、恋せよ乙女」だとされています(知恵袋)。この言葉は「ゴンドラの唄」の歌詞の一部で、黒澤明監督の映画「生きる」の中で歌われたものです(参考)。映画を見たことがないので何とも言えませんが、あらすじを見た限りでは、主人公が自分の人生と重ね合わせて「恋というのは若いうちしか出来ないものだ(?)」というようなニュアンスで、この言葉に人生の短さや儚さを歌ったのではないかと邪推します。
転じて、「夜は短し歩けよ乙女」の言葉の意味ですが、65頁でこの言葉が初登場します。この場面ですが、主人公の黒髪の乙女と李白氏が飲み比べをしているシーンです。まず李白氏が「ただ生きているだけでよろしい」「おいしくお酒を飲めばよろしい。一杯一杯又一杯」と言います。続いて黒髪の乙女が「李白さんはお幸せですか」と問いかけたのに対して、李白氏は「無論」と答えています。つまりこの場面での李白氏は、上述した映画「生きる」での主人公の姿と重ね合わせることが出来ます。偽電気ブランを楽しみながら今までの人生を振り返り、「ただ生きているだけでよろしい」「おいしくお酒を飲めればよろしい」という言葉を発したのだと思います。そうすると、その流れで「夜は短し歩けよ乙女」という言葉を発したと解釈することができますが、これは主人公が「うわばみ」であることや、まだ若いことを考慮しての発言でしょう。
ここでの「夜は短し歩けよ乙女」の「歩けよ」の意味ですが、文字通りの歩く=walkではないと思います。というのは、この言葉をそのままの意味で解釈すると「夜は短いから歩きなさい(?)」という意味不明な文章になります。goo辞書で「歩く」という言葉の意味を調べましたが、
1 足を動かして前に進む。歩行する。あゆむ。「―・いて帰る」「野山を―・く」
2 あちこち動き回る。移動する。必ずしも徒歩と限らず、乗り物などで外出する場合にもいう。「得意先を―・く」「世界を股 (また) にかけて―・く」
3 野球で、打者が四死球で塁に出る。「怖いバッターを―・かせる」
4 月日を経る。過ごす。あゆむ。「―・いてきた半生を振り返る」
5 (他の動詞の連用形に付いて)あちこちで…してまわる。「尋ね―・く」「酒場を飲み―・く」という5つの意味があることが分かります。
さて、このどれが一番近いニュアンスなのかと悩む所ですが、私は5番と4番に近いのではないかと考えます。というのも、そもそもこの言葉が発せられた場面が上述した飲み比べというシチュエーションであり、その前に李白氏は「おいしくお酒を飲めればよろしい」とさえ言っています。つまり、「夜は短し(お酒を飲み)歩けよ乙女」という意味にも取れるのです。この言葉の意味で解釈すれば、「夜というのは短い=あっという間だから、たくさんお酒を飲んで(盃を交わして)、いろいろな人と出会いなさい。それが行く行くは人生の糧になるでしょう」ということになります。しかし、「夜は短いからたくさん酒を飲め」という意味でこの小説のタイトルとなっているのは考えづらく、そこまでこの言葉の意味は単純では無いと思われます。
ここで思い出して頂きたいのが、この言葉の語源?ともなった「命短し恋せよ乙女」の意味です。その解釈は十人十色ですが、李白氏が年齢を重ねた好々爺であることを踏まえて、今までの人生を振り返りつつ「夜は短し歩けよ乙女」と発言したのだと思います。つまり「短し」の意味は5番の意味も確かに包含するでしょうが、4番の「月日を歩む」という意味も踏まえているのではないでしょうか。4番の意味で「夜は短し歩けよ乙女」という言葉を発したと考えれば、「夜は短い=人生は短いのだから、歩けよ=1日1日を大切にして過ごしなさい」と解釈することが出来ます。なぜならば、「夜は短し歩けよ乙女」の言葉が発せられる前には「李白さんはお幸せですか」という黒髪の乙女からの問いかけがあったからです。そこで李白氏は「無論」と即答し、黒髪の乙女から「それは大変喜ばしいことです」と評されています。このやり取りを踏まえれば、李白氏の「無論」という言葉の意味には「あっという間の人生であったが、幸せであった」という自身の過去を振り返るニュアンスが含まれていると考えられます。すなわちその流れで「夜は短し歩けよ乙女」と発したのですから、自身の人生を振り返りながら「夜は短し=ここでの夜とは、すなわち人生のことではないでしょうか、歩けよ=1日1日を大切に過ごしなさい」という意味だとも言えるのです。
更には、2番の「あちこち歩きまわる」という意味で言えば、これは「歩きまわることによって、いろいろな人と出会いなさい」とひも付けすることが出来ます。事実、主人公である黒髪の乙女は、李白氏に会うまでに色々な場所を歩きまわってきており、そこで色々な人と出会いました。冒頭で言われているように「役者で満ちたこの世界において、誰もが主役を張ろうと小狡く立ちまわるが、まったく意図せざるうちに彼女はその夜の主役であった」のです。
ここまでの意味を総合すると、「夜は短し歩けよ乙女」とは、「人生というのは短いのだから、(お酒の席も含めて)沢山の人との出会いを楽しみなさい。それがやがてはあなたの人生の糧となり、原動力ともなるだろう。幸せの定義は人それぞれ異なるだろうけれども、私(李白)は、ただ生きているだけ(人との出会いを楽しむだけ)で幸せだと思う。黒髪の乙女よ、夜は短いのだから歩きなさい。沢山の人生観を持った人と出会い、そして成長しなさい」という意味ではないかと解釈します。
そして、もう一つだけ考えておきたいのが、21頁で東堂氏が発言した「若人よ、自分にとっての幸せとは何か、それを問うことこそが前向きな悩み方だ。そしてそれをつねに問い続けるのさえ忘れなければ、人生は有意義なものになる」という言葉です。65頁での飲み比べの場面とは直接の因果関係はありませんが、21頁での東堂氏の発言は「夜は短し歩けよ乙女」に集約されるのだと思います。
[2017/04/08追記]
この小説を題材にした映画「夜は短し歩けよ乙女」が公開されました。まだ見ていないのですが、機会を見計らって映画を見に行きます。予告編のpvを見たところでは、どうやら小説の第一章「夜は短し歩けよ乙女」だけではなく第二章「深海魚たち」、第三章「御都合主義者かく語りき」、第四章「魔風邪恋風邪」のまるまる1冊分が映画として完成している様です。てっきりこの第一章だけで終わるのかしらと思っていたばっかりで、早く映画が見たくなってきました。映画を見たらまたこの小説について考察したいと思います。更には、おざなりにしてきた第二章から第四章の語句の意味纏めも再開しますのでどうぞ宜しくお願いします。