公開から既に10ヶ月以上が経過していますが、今更ながら007「スペクター」を見る機会がありました。映画を見た率直な観想としては、「あれ、ボンド紡錘状回破壊されたんじゃないの?大丈夫じゃん」でした。そこでもう一度映画を見直してみて、私なりの考察(といったら烏滸がましいですが)書いておきます。以下ネタバレの要素を含みます。
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気になったブロフェルド氏の言動不一致
作中でボンドは全身を拘束されて責められるという何ともうらやましい痛々しいシーンが印象的な場面があります。その中で、ボンドは左右1箇所ずつをドリルで刺されました。ボンドを拷問する敵エルンスト・S・ブロフェルドは「If the needle finds the correct spot in the Fusiform gyrus,you recognize no one.(針が紡錘状回の正しい箇所を刺した場合、君は人を認識できなくなる)」と発言しており、さらにその台詞を言う途中でボンドの首筋を撫でています。
この場面を見ただけでは、あたかも紡錘状回が首筋にあるような印象を受けますが、それは違うようです。wikipediaによれば、紡錘状回とは脳の側頭葉部分に位置するといいます。でもこの場面を見た人は「明らかにそこ脳じゃないじゃん!」と思うだろうというのが率直な観想なのですが、どうなのでしょうか?確かに延髄は首まで繋がっていることは繋がっているけれども、「紡錘状回を攻撃するよ~」と言いながらボンドの首筋を撫でるという、ブロフェルド氏の言動不一致によって、「ボンド、拷問されても大丈夫じゃん、イマイチ腑に落ちないな」というのが正直な所です。
別の観点として、誤訳という可能性もあるのではないかと疑ってもみたりしたのですが(つまりFusiform gyrusという単語の聞き間違いや、それ以外の別の意味があるのではないか?)、たしかにブロフェルド氏は「Fusiform gyrus」と言っていますし、その英単語には紡錘状回以外の意味が無いようです。ましてや翻訳者(戸田奈津子さん)という英語のプロが聞き間違える可能性が低いのは当たり前です。あるいは監督サム・メンデスの演出ミスか??とも考えましたが、冷静に考えれば、そんな訳あるはずがありません。ともすればブロフェルド氏の言動不一致の意味するところは何だ?となった訳です。
拷問シーン
上記のシーンの前、そして後にボンドはドリルを左右両側に突き立てられますが、その場面のカットから見ても明らかに紡錘状回ではありません。
明らかに顎関節攻撃してるし、
紡錘状回ってもうちょっと上の部分ではないかと思うのですが・・どうなんでしょうか?
ともすればブロフェルド氏の発言の意味するところは?とますます疑問が深くなるのは当然の事です。話は前後しますが、拷問シーンの冒頭の部分では「Im going to penetrate to where you are to the inside of your head.(貴方の頭の中にある、君がいる部分に針を突き立てる)」と言っています。更に脳みその部分を指差しながら発言していますから、ブロフェルド氏がこれから脳を攻撃する腹積もりであることは見て取れます。
ともいいながら、上記の拷問シーンでは顎関節を攻撃したりしていますが…一体ブロフェルド氏の真意とは何ぞや?と思っていた所、一つヒントとなる発言がありました。
「 Now the first probe will play with your sight, your hearing, and your balance, just with the subtlest of manipulations.」
probeとは、goo辞書によれば、「探り針」の事です。weblioによればsubtlestとは名状しがたいという意味です。つまり上記の発言を直訳すれば「まずは貴方の視界に探り針をいれて、次に聴覚、そして平衡感覚に探り針をいれる。名状しがたい操作を伴って」ということになります。名状しがたい操作とは何か、と思いましたが、字幕では「ごく微妙な針の動き」と訳されていました。この後の場面では、ブロフェルド氏は「人間なんてほんのちょっとで壊れちまうもんさ」というような雰囲気の発言を醸していますから、それと同様にボンドの脳もごく微妙な針の動きで壊れちまうもんさ、と言いたかったのでしょう。
さて、上の台詞では、ブロフェルド氏は「Now the first probe will play with your sight」と言っています。firstとは一番目という意味です。つまり、「まず君の視界にドリルを突き立てる」という趣旨の発言ではないでしょうか。そして拷問シーンのラストでは、
ボンドの目に針を突き立てていますから、これがブロフェルド氏の言うところの「first」だったと解釈できます。それから聴覚(鼓膜?)、平衡感覚(三半規管?)を破壊するという腹積もりだったのではないでしょうか。つまり、拷問シーンの最初2回は、まず視界を破壊する「first」に辿り着くまでの”じらし”だったと解釈しています。いきなり視界を潰しても面白くありませんし、(何と言ってもボンドの視界が潰されたら映画として成り立ちませんから)、「これからこのような痛みを与えていくよ、ボンド君」というブロフェルド氏の前戯拷問プレイという訳だったのかもしれません。ブロフェルド氏が紡錘状回を攻撃すると言いながら、ボンドの首筋を撫でていたのは、「(紡錘状回を攻撃するその前に)まずは君の顎関節でも刺してやるよ」という演出だったのかもしれません。ともすれば「Im going to penetrate to where you are to the inside of your head.(貴方の頭の中にある、君がいる部分に針を突き立てる)」という発言の意味するところは、視力、聴覚、平衡感覚のトリニティ(三つ巴)だったと読み解くことも出来ます。
最初2回の拷問シーンの後にボンドが「i recognize you anywhere.(いつでも君が分かる)」と言っていますが、まあ拷問される側はどの部分を攻撃されているのか正確に理解出来ていませんし、ブロフェルド氏のパソコン画面も確認することができません。氏の「これから脳に攻撃する」という趣旨の発言を聞かせられた上では、自分は脳を攻撃されているのか、という認識を抱いてもおかしくはありませんし、それを踏まえた上で「俺はまだ大丈夫だぜ」と発言したとも解釈できます。最も、医者であろうボンドガールが、ブロフェルド氏のパソコン画面を見ることが出来たにも関わらず(とはいえそんな余裕はないでしょうが)、本当に脳を攻撃されていたのかどうか理解出来ていたのかは分かりません。それも含めての映画かもしれませんが、あるいは本当に紡錘状回を攻撃されていても平気だった可能性や、微妙に針の位置がズレてボンドが助かった可能性、ブロフェルド氏が紡錘状回の位置を誤解していた可能性(それはないか?)もあり、その受け取り方はオーディエンスに委ねられているようです。