私は現在、某スーパーで品出しのアルバイトをしている。「品出し」とは読んで字のごとく、品を出す、つまり入荷してきた商品を陳列するアルバイトのことだ。
客「すいません、ベルトってありますか?」
今回来た奇妙なお客さん(通称ベルトさん)はこのようなことを聞いてきた。店員である私に突然話しかけてきた30代半ばと思われる男性、身長160くらい。髭が濃い。というか剃ってない?ラッシュ・アワーの最中、多くの会社員の方々がお弁当や飲料を買っていく朝8時くらいの時間。額には大量の汗、右手には通勤バッグ、そして左手は…、腰のズボンが下がらないように一生懸命に保持している。他の会社員と決定的に違う点は、どうやらズボンにベルトがないということだ。
私「すいません、ベルトは取り扱ってないです」
私の働いている某スーパーはそれほど広くはない。広さにして200-300坪くらいの小さな店である。品揃えはあまり良くはない。一応食品系は充実しているが、生活用品は最低限レベルである。食品棚3列に対して、生活用品の陳列棚は1列のみ。それは仕方のないことだ。ベルトなんか売っているはずがないのである。
ベルトさん「そうですか…」
返ってくる答えに予想はついていたのだろう。そういうと、そのお客さんは悲しげな表情で店を去っていった。その背中は、定年退職後に長年寄り添ってきた妻から突如として離婚を突きつけられた夫のようだ。ものすごい落ち込んでる。落ち込み度が半端ない。どうしてそこまで落ち込むのだ。というかなぜベルトがない。悲しみに満ちた背中のサラリーマンは、右手にカバン、左手を腰にあてながらお店を去っていった。一体何があったのだろう?と非常に気になって仕方の無いことなのだ。今思えば、きっと寝坊か何かで時間がなくなってしまい、慌てて髭も剃らずに出社したのだろう。その時急いで着替えてきたために、ズボンにベルトを通すのを忘れてしまったのではないか。あくまで予想だが。まあこういうこともあるさ。頑張れ。僕も頑張る。
ひょっとしたら、荷造り紐で代用できたんじゃないだろうか…?つまり腰回りに紐を2-3回巻けばベルトの代わりになったような…。荷造り紐なら売っているし、見た目は悪くなるかもしれないが、上着を着ればなんとか誤魔化せるだろう。その場で提案したとして受け入れられたかどうかは分からないが、ベルトさんの落ち込んでる背中を見送りながら後悔していたのは、ここだけの話である。